vol.11 歯の移植(親知らずの歯を、反対の奥歯に移植して喜ばれた症例)
奥歯の激痛と歯肉の腫れは、歯根破折が原因だった。
奥歯の激痛と歯肉の腫れを訴えて30代の男性が来院されました。
さっそくレントゲンを撮り、痛みの箇所を診てみると、2本ある歯根の奥側の根が、縦に割れています。歯根の破折に伴い、根の先の周りに細菌感染を起こし、骨が溶けているのがわかりました。これが痛みと腫れの原因でした。
保存不可能だったが、自分の歯を「再利用する治療法」を提案
まず初めにできる限り「歯を残せる方法があるか否か」を検討するのですが、今回、歯根が大きく破折してしまっている状態だったため診断結果は「保存不可能」でした。
保存不可能なためこの歯は「抜歯する」しか選択肢がなかったのですが、治療計画を検討する中で、反対側に親知らずがあったため、この「親知らずの歯」を移植すれば、自分の歯として再利用できる治療法があることを提案し、患者さまの希望で「歯の移植治療」をすることになりました。
親知らずの歯の移植(歯牙移植)
主訴の部位の歯を抜歯し、その場所に、反対側から親知らずの歯を抜いて移植しました。下図右側の画像を参照。
移植後2〜3週間で根が定着。根管治療を実施しました。
移植して2〜3週間で、根と周囲の細胞とが定着し始めます。移植した親知らずの歯は、一度抜歯したため根が死んでしまっています。そのため、このタイミングで歯科用マイクロスコープを使い、根管治療を実施します。
根の定着は始まっていますが、根の周りに黒い部分(透過像)が見えているように、骨ままだまだ回復していない状態です。根管治療をした後、3ヶ月くらい時間をおいてから上物の歯をつくっていきます。
歯を移植して3年経過。骨は再生し予後順調。
移植後は、治療箇所の経過観察とお口の中のクリーニングのために、3〜4ヶ月に1回のペースで定期メンテナンスに通っていただいております。移植した歯の”根の周囲”に注目して「移植後3Week後」と「移植後3年後」の画像を比較して見てみると、根の周りにあった黒い部分(透過像)がなくなり、歯のまわりの骨が再生しているのがわかります。
そして30代男性患者さんからは、アーモンドやせんべいなどの固いものもしっかり食べられると嬉しいお話をいただきました。
歯の移植治療(歯牙移植)は、保険診療です。
歯の移植治療は、どこの歯科医院でもできるわけではありません。むしろ珍しいため、患者さまに歯の移植治療のご提案をすると「そんなことができるんですか?」と驚かれることが多々あります。同時にあまり聴いたことがないため、「自由診療ではないか?」という先入観をもたれることもあるのですが、歯の移植治療は、保険診療で行うことができます。
もちろん移植できる歯があることが大前提ですが、ご興味がございましたらぜひ一度ご相談ください。