vol.1 「歯ぐきが腫れて痛い」50代女性の症例
” 歯ぐきが腫れて痛い ” を訴えに、
50代・女性患者さんが初めて当院を受診されました。
2年前に、他院で「根の治療をしたところ」
お口の中を診察してみると、
右下6番目の歯(第二大臼歯)の歯ぐきが赤くぷっくりと腫れていました。
女性は「2年前に、他の歯医者さんで根の治療をした場所」とお話ししてくださり、
腫れた箇所の内部状況がわからないので、レントゲンを撮影してみることになりました。
レントゲンフィルムを見ると、根の先の周囲にうっすら黒い影(下図参照)が・・・。
これが、腫れと痛みの原因。
レントゲンに映る、うっすら黒い影とは・・・
これは根尖病巣(こんせんびょうそう)という症状です。
根の先に病巣が残っていたために炎症を起こしていることがわかりました。
以前の根管治療の時に、根の先端まで病巣を取り除けていなかったことが原因でした。
では、以前の治療が手抜きだったか?
そう聞かれると、答えはNO!で、そうではありません。
以前のドクターも最善を尽くされたが
取りきれなかった様子がレントゲンからわかりました。
根管の中にある「2本の白いもの」の正体!?
よくよくレントゲンをみていると、
「病巣の上部に、何か白いものが2本ある」ことに気付きました。
実は、この「2本の白いもの」が、
以前のドクターが最善を尽くされた証拠なのです。
根管の中に残った「破折したファイル」
この白いものは何か?
おおよその見当はついていましたが、
「2本の白いものの正体を確認する」ために、
お口を大きく開けてもらい、
歯の根の中をマイクロスコープを使って見てみました。
すると・・・やはり、思った通り。破折したファイルでした。
ファイルとは?
虫歯で侵された根管内の(神経)を取り除くために、
このファイルという器具を使用します。
ファイルは、針のように細長く凹凸があり
根管の中を削れる仕様になっています。
神経は細く複雑に曲がりくねっているため、
歯質に食い込み、途中でファイルが折れてしまうことは、
熟練のどんなにうまい先生でもあること(歯科あるある)ですので、
心配はご無用です。
*注1:ファイルは完全滅菌されており、歯の中に残された破折ファイルが原因で、
他にトラブルが起きることはないのでご安心ください。
*注2:ここでの歯ぐきの炎症の原因は、根の先端の病巣を取り切れなかったこと
でファイルは無関係です。
根管で折れたファイルは、肉眼では見つからない
ファイルが折れてしまった場合、
肉眼で見つけるのは、絶対にムリなレベルです。
なぜなら、肉眼での治療は、
以下画像のように見えているためです。
そのため、一般的な根管治療では、
ファイルを歯の中に残したまま
封鎖するしか手段がないのが実情です。
但し、ファイルを2本折ってまで、
どうにか病巣を取り除こうとされた
前主治医の先生の努力の形跡が伝わってきてました。
マイクロスコープ(手術用拡大鏡)20倍の視野下なら、折れたファイルも見つかる!
肉眼では見えない”折れたファイル”も、マイクロスコープ(手術用拡大鏡)を使うと、以下のように”バッチリ”見えます!
「見える」から、“精密”な治療ができる。
この破折ファイルが残っている事実と
歯ぐきの腫れの原因について、
患者さんにきちんと説明をした上で、
まずは2本の折れたファイルの除去に着手しました。
超音波で振動を与えながら、
折れたファイルを徐々に浮き上がらせていくと、
根管内に残された”破折ファイル”を
2本除去できました。
マイクロスコープの “精密な” 根管治療で安心を!
次回の診療から、
根の先端にある病巣を取り除く治療に着手しました。
ここでもマイクロスコープを使い、
以前の治療では取り除けなかった
根管内に残っている病巣をファイルで丁寧に除去。
薬で、根の先端部の病巣が
少しずつ小さくなっていきました。
様子を見ながら、
合計4回通院していただいたところで、
完全に殺菌できましたので、
根管治療が完了となりました。(下図参照)
*注:通院回数や期間は、症状や個人差により様々です。
もっと回数がかかってしまう場合もあれば、少なく済む場合もあります。
必ずお約束できるものではありませんので、予めご承知おきください。
患者さんは、2度ビックリ!
治療における患者さんの様子をご紹介すると、
歯ぐきの腫れの原因をお伝えした際に、
自分の歯の中に破折ファイルが残っていたことに
まずビックリされました。
マイクロスコープ20倍の画像で
破折ファイルをご自身の目で確認できたため
治療への納得感は高く、すぐに治療に着手させていただきました。
そして、
破折ファイルが取れた時は、
さらにビックリされていたのが印象的でした。
何より、主訴である「歯ぐきの腫れと痛み」がなくなり、
たいへん喜んでお帰りになられた姿を見て、
こちらも医療者としての喜びを感じさせていただきました。